平成17年2月8日
三和澱粉工業株式会社
江崎グリコ株式会社
世界初! 砂糖を原料とした『酵素合成アミロース』の量産化技術開発に成功
― 植物由来の新規な生分解性機能材料 ―
― 高機能フィルムやナノテクノロジー分野への用途展開に期待 ―
三和澱粉工業株式会社(本社:奈良県橿原市、社長:森本 俊一) と江崎グリコ株式会社(本社:大阪市西淀川区、社長:江崎 勝久)は、 優れた生分解性と高度な機能を併せ持つ新素材『酵素合成アミロース』 の量産化に成功いたしました。
石油枯渇問題や地球環境汚染問題を抱える今、石油を原料とせず、 環境中で容易に分解する材料の開発が期待されています。 アミロースは、ブドウ糖が直鎖状に連結してなるバイオポリマーであり、 植物澱粉の成分であることから、高い生分解性と安全性を有する材料です。 しかし、澱粉から、純粋なアミロースを工業的に生産することは非常に困難であるため、 アミロースの産業利用は進んでいませんでした。 両社は、澱粉からアミロースを精製して製造するのではなく、 酵素反応により砂糖からアミロースを製造する技術開発に共同で取り組み、 このたび酵素合成アミロースの量産化技術を世界ではじめて完成させました。 この技術を用いることにより、効率的に、高純度で、大きさ(分子量) の制御された酵素合成アミロースの生産が可能となりました。 この酵素合成アミロースの製造技術は、 再生産可能な植物由来成分である砂糖を原料としていることに加え、 製造方法も酵素を利用した省エネルギー型反応であり、 環境にやさしい次世代ポリマー製造技術であるといえます。
酵素合成アミロースは、優れた生分解性に加え、包接化合物形成能力、 ゲル形成能力、フィルム形成能力を有する高機能素材であるという特長を有しており、 これらの特長を組み合わせて利用することにより、幅広い産業分野への応用が可能です。 大阪府立大学 北村進一教授との共同研究の結果、 酵素合成アミロースから成形したフィルムは高いガスバリア性を有していること、 フィルムにヨウ素を包接させることで優れた偏光機能を持つことが明らかとなっています。 また繊維や中空糸、シームレスカプセル等、様々な形状に加工して酵素合成アミロースの機能を発揮させることができます。
今後は高機能フィルムやナノテクノロジー分野の機能研究を継続して実用化を目指すとともに、 各方面との幅広い共同研究を募り、様々な分野での用途開発を積極的に行っていく予定です。
平成17年2月8日
三和澱粉工業株式会社
江崎グリコ株式会社
世界初! 砂糖を原料とした『酵素合成アミロース』の量産化技術開発に成功
― 植物由来の新規な生分解性機能材料 ―
― 高機能フィルムやナノテクノロジー分野への用途展開に期待 ―
澱粉は、アミロース(注1)という成分とアミロペクチン(注2) という成分の混合物で、このうちアミロースはブドウ糖が多数結合した直鎖状ポリマー (完全な直鎖ではなく、多少分岐構造を含む)、 アミロペクチンは短いアミロースが多数分岐して結合した分岐状ポリマーです。 植物の育種により、アミロースを含まず、 アミロペクチンだけを含む澱粉が開発されており、 純粋なアミロペクチンは安価に入手が可能であり、広く産業利用が進んでいます。 一方アミロースは、澱粉からアミロースのみを分離精製することが非常に困難であるため、 研究用試薬としての入手は可能であるものの、産業利用・応用研究は進んでいません。
江崎グリコと三和澱粉工業は、澱粉からアミロースを精製するのではなく、 酵素反応によってブドウ糖を重合させることにより、 アミロースを製造する技術開発に共同で取り組みました。 この結果、砂糖に2種の酵素(スクロースホスホリラーゼとグルカンホスホリラーゼ) を作用させることにより、効率的に純粋なアミロースを生産する方法を完成させました。 本技術により生産される酵素合成アミロースは、天然のアミロースと異なり、 分岐構造を全く含まない完全直鎖状のポリマーであり、その分子量(分子の大きさ) は製造時の条件設定により、厳密に制御することが可能です。 このような酵素によるポリマー材料の生産、特に、 分子量の厳密な制御を伴う工業的なポリマー材料の生産は世界で初めてです。
現在広く産業利用されているポリマー材料の多くは、石油を原料とし、 化学的な重合反応により製造されています。これら化学合成ポリマーは、 限りある石油資源を原料とするだけでなく、 使用後は環境中で分解されないため焼却処理が必要であり、 結果として大気中の二酸化炭素量を上昇させます。 今回の酵素合成アミロース製造技術は、再生産が可能な植物由来の天然資源(砂糖) を原料としており、焼却した場合も環境中の二酸化炭素量を上昇させません(図1)。 また、製造過程が酵素を用いた省エネルギー型プロセスである点も大きな特長です。 まさに、環境にやさしい次世代ポリマー製造技術であるといえます。
酵素合成アミロースは、澱粉の成分と同じですので、 極めて優れた生分解性と安全性を備えています。さらに、包接化合物形成能力、 ゲル形成能力、フィルム形成能力などの特長を有する高機能材料です。 酵素合成アミロースはこれら特長を組み合わせて利用することにより、 以下に示すような幅広い産業分野への応用が可能です。
多数のブドウ糖がα-1,4グリコシド結合によって重合し、 直鎖状になった高分子である。アミロペクチンと同じく澱粉分子であるが、 形状の違いにより異なる性質を持っている。 澱粉に含まれるアミロースは完全な直鎖ではなく、 1分子あたり5〜20個程度の分岐がある。通常の澱粉には20%ほど含まれるが、 トウモロコシの中には、このアミロース含量を80%程度にまで上げた品種もある (高アミロース澱粉)。分子量は5×105から2×106程度 (ブドウ糖で3,000個から12,000個程度)で、アミロペクチンより小さい。
(注2)アミロペクチン
重合度20程度の短いアミロースが、α-1,6グリコシド結合により多数結合した、 枝分かれの多い構造になった高分子である。アミロースと同じく澱粉分子であるが、 形状の違いにより異なる性質を持っている。通常の澱粉には80%ほど含まれる。 分子量1.5×107から4×108程度(ブドウ糖で90,000個から250,000個程度)で、 アミロースに比べて大きい。
酵素合成アミロースは図2に示すようなヘリックス構造(らせん構造) をとることができ、その内部の空洞部分に、さまざまな物質を取り込み、 包接化合物(注3)を形成することができます(図3)。 澱粉にヨウ素液を加えると、澱粉が青色になることは有名ですが、 これは、アミロースのへリックス構造内部にヨウ素が包接されることによるものです。 酵素合成アミロースはヨウ素以外にもさまざまな物質 (薬剤、機能性食品成分、界面活性剤、油、色素、フレーバー物質、 環境ホルモン物質等)を取り込むことが可能であり、 酵素合成アミロースは包接材料として、さまざまな産業分野への利用が期待されます。
上段左:酵素合成アミロースの構造(上段右はらせんの断面方向から見た図)
下段左:酵素合成アミロースとステアリン酸との包接化合物のモデル図 (下段右はらせんの断面方向から見た図)
可溶性澱粉と酵素合成アミロースの3%水溶液に、香料物質(1:(R)-(+)-リモネン, 2:リナロール, 3: L-メントール)、脂肪酸(4:ステアリン酸, 5:オレイン酸 6:リノレン酸)、 環境ホルモンの可能性が示唆されている化学物質(7:ノニルフェノール)を添加し、撹拌した後の写真。包接化合物を形成したものは白濁。
包接とは、ホスト分子の有する空洞内部に、ゲスト分子(イオン、原子、分子など)が取り込まれる現象をいい、生じるホスト:ゲスト複合体を包接化合物という。ホスト分子としては、シクロデキストリン(6-8個のブドウ糖がα-1,4グリコシド結合で環状に連結した糖質)が有名である。
酵素合成アミロースは優れたフィルム形成能力、ゲル形成能力を持ち、 これを利用することでフィルムや繊維、中空糸(注4)、シームレスカプセル(注5) 等、様々な形状に加工することが可能です(図4)。 酵素合成アミロースを加工した成形物は、 それ自体が包接性をはじめとしたアミロースに固有の性質を持ち、 機能材料として利用することができます。
大阪府立大学との共同研究の結果、酵素合成アミロースのフィルムは、 高いガスバリア性(注6)を持つことが明らかになりました。 特に分子量100万程度の高分子量のアミロースは、 非常に優れたフィルム形成能力をもっており、 その強度は汎用合成高分子フィルムに匹敵するものです。 このような特性をもつアミロースフィルムは、 酸素バリア性包装容器などへの利用が期待されます。
中空状の内部構造を持つ繊維。分離用の高分子膜を中空糸にすることで、単位体積あたりの膜面積を高めることができる。水や気体の浄化、人工透析膜などに用いられている。
(注5)シームレスカプセル
医薬品や健康食品に用いられるカプセルのうち、直径0.3〜10mm程度の真球状で継ぎ目のないものをシームレスカプセルという。液体をはじめとした様々な物質を充填することが可能。
(注6)ガスバリア性
気体を遮蔽する性能に優れた膜。食品包装材料として使われ、品質保持性能、酸化劣化防止、保香性などの特性を持つ。また、ガスバリア性を持つフィルムなどは、ガスの漏洩防止のために配管接続部分のシール、有機ELディスプレイなどにも用いられる。
偏光フィルム(注7)は液晶ディスプレイに必須な材料であり、 パソコンや液晶テレビ、携帯電話、時計、電卓等に幅広く用いられています。 現在知られている代表的な偏光フィルムは、 ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を染着したものです。 澱粉に含まれるアミロースがヨウ素を包接することは良く知られていましたが、 フィルム形成性がないために、 これまで偏光フィルムとして利用することはできませんでした。
大阪府立大学 北村進一教授との共同研究の結果、 酵素合成アミロースのフィルムにヨウ素を包接させることで、 優れた偏光特性を持つことが明らかになりました(図5)。 酵素合成アミロースのフィルムは非常に透明性が高く、 偏光フィルム中のアミロースがヨウ素を強力に包接するために、 液晶ディスプレイの高性能化への展開が期待できます。
偏光フィルムとは、特定の振動方向の光だけを通し、それに直行する光は吸収するようにしたフィルムである。液晶画面やサングラスなどに使われている。
このたびの技術開発により、 砂糖から酵素を用いて高純度でかつ任意の大きさの酵素合成アミロースを量産化できるようになったことは、 極めて画期的なものです。 また分子の大きさに応じて様々な高機能を発揮する酵素合成アミロースは、 ナノテクノロジー分野だけでなく、 広範囲な産業分野において注目される素材になると思われます。
三和澱粉工業と江崎グリコは酵素合成アミロースの早期実用化を図り、 広範囲な産業分野で酵素合成アミロース利用製品が開発されることを期待しています。 そのため現在両社で実施している機能研究に加えて、幅広く各方面の協力を得て、 用途開発を積極的に推進したいと考えています。
なお今回の成果については、日本農芸化学会2005年度大会 (3月28日〜30日、札幌コンベンションセンター)、 第54回高分子学会年次大会(5月25日〜27日、パシフィコ横浜) などで順次発表していく予定です。 また香港で開催されますGordon Research Conference(6月5日〜10日) でも関連発表を予定しています。
本研究には、文部科学省『関西学研都市知的クラスター事業』 と経済産業省『地域新生コンソーシアム研究開発事業』 の連携による補助を受けて実施された研究成果、 並びに『大阪府立大学産業創造研究推進事業』 の補助を受けて実施された研究成果が含まれます。
